
後輩Yの転職から学ぶ──突然の買収にどう備えるか 〜買収・分社・事業譲渡は、ある日突然やってくる〜
11月21日
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※本記事は筆者の知人の経験をもとにした考察であり、特定企業の評価や批判を意図したものではありません。
■ はじめに

もしある日、出社したら「会社が買収されました」と知らされたら……あなたならどうしますか?
私の後輩Yがまさにその状況に直面しました。
彼の勤めていた中堅SI企業は、グローバルコンサル企業A社(日本法人)に突然買収。そしてYはそのままA社へ転籍することに。そこから数ヶ月が経ち、彼が体験した現実は、想像以上に濃いものでした。
■ YがA社に残ると決めたワケ
Yには、A社で「自分のキャリアが評価された」「以前の経験を活かせる」という確信がありました。彼のキャリアをざっと振り返ると、確かにそれも納得です。
米国ICT製品のOEM担当(国内メインフレームベンダー向け)
メインフレームベンダーでパートナー販売事業の責任者
中堅SI企業でクライアント向けソフトウェア事業責任者
※OEM:他社技術を自社ブランドで製品化して販売する方式。

まさに“IP × OEM × パートナー戦略”の文脈に強い人材。A社としても、買収後の新たな戦略に活かしたいと考えたのは自然な流れだったのでしょう。
■ A社が抱える現在地と課題
A社はこれまで「大手グローバル企業に向けた高付加価値サービス」で成長してきた、いわば“強者の戦略”の代表格。しかし今、そのビジネスモデルが揺らぎ始めています。
DX・SIなど“手段”への注目が高まり、上流工程の価値が相対的に低下
大手企業依存が進み、案件数そのものが減少
要は、コンサルの王道モデルだけでは戦えない時代になっている、ということです。
■ 変革の方向性──A社が模索する新モデル
そこでA社が挑もうとしているのが、次の2つを軸にしたビジネスモデルの転換です。
一品モノの個社対応から、自社IPの製品化へ(多社展開)
個人依存の営業から、OEM/再販モデルへ(間接販売)
注釈:IPインテレクチュアル プロパティ:特許、商標、著作権、営業秘密など、企業が保有する知的財産の 総称。製品やサービスの差別化や競争力の源泉となる。

つまり「コンサルで培った知見をプロダクト化し、パートナー経由で広く売っていく」という方向性。この動きの中心に、Yが選ばれたわけです。
■ Yの取り組みと、ぶつかった“大きな壁”
Yは王道とも言える手順でモデル構築を進め始めました。
自社IPの棚卸しとOEM可能な候補選定
パートナー候補リストの作成
Win-Winを築くための社内体制の検討
しかしここで早くも壁が立ちはだかります。
A社には「売ったあとの責任はパートナー」という文化が根強く、製造責任・サポート体制の整備に対する意識が驚くほど薄かったのです。
これではOEMモデルなんて成立しません。
■ OEMモデルに不可欠な“仕組み”とは
そこでYが社内に訴え続けたのが、以下の仕組み作りの必要性でした。

パートナーとの価値連鎖の明確化
狙う市場・顧客の明確化と差別化ポイント
デリバリーリソースとサプライチェーンの整備
役割分担と責任範囲の合意
非常時のエスカレーションパス
予算・回収計画・撤退基準(Exit Plan)
しかし、A社は「フラットな組織」が特徴ゆえ、IP単位でのリソース確保が難しく、継続受注の保証もないという現実がありました。
これではコンサルモデルと何が違うのか?Yの疑問は強まるばかりです。
■ 二つの選択肢──Yが下した決断
Yの前に残された選択肢は、次の2つでした。
OEMライセンス型:IPを製品化し、サポートまで含めてパートナーと協業する
売り切り型:IPだけ譲渡し、以降の責任はパートナーへ委ねる

現状のA社では②しか成立しません。しかし、それでは価値が低いIPしか候補に残らず、パートナーにも魅力がない。Yは「だからこそ①を実現すべきだ」と考えています。
幸い、同じ経験を持つX氏が理解者として加わってくれました。Yは、責任者を説得するという“次のステージ”へ踏み出す覚悟を固めています。
■ 生き残りの条件──Yから見えた“変革者の素質”
Yはまだ“試行”にさえ到達していません。これはそのための準備フェーズでしかあ りません。
それでも彼が前に進もうとする理由は明確です。課題が見えているからこそ、解決策も見えているからです。
彼の姿を見ていて、私は変革者に共通する2つの特徴を感じます。
難題に向き合うことで、自分の価値(解決能力)を磨けると理解している
自分の価値が“今の組織で発揮できるか”を冷静に判断できる
この2つは、これからさらに変化が激しくなるビジネス世界を生き抜くための条件でもあり、心構えでもあるでしょう。

■ 最後に──Yへ
「このモデルが理解されないなら、自分の価値は発揮できない」と語るY。
私はその言葉に、強い覚悟と静かな情熱を感じています。だからこそ、心から応援したい。
変革のプロセスは苦しいけれど、“その過程を楽しめた者だけが、次のステージに行ける”。
Yにはきっとその景色が見えるはずです。
筆者 屋代喜久






