
自動車運転に学ぶ、リーダーとしての心構え ~日常業務に潜むヒューマンエラーと、その予防策~ (全体最適、チームや仕組みのメンテナンス、変化に柔軟、学び続ける姿勢)
6月23日
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イントロ

前回のブログで、大坪さんが会社視点での経営を車の運転に例えて論じていましたが、いろいろな気づきがありましたね。 私も会社員時代に参加した講習会で、リーダーとしての心構えを車の運転に例えて説明されたことを思い出しました。
今回のブログでは、自動車運転の典型的な要素や事故原因を切り口に、企業活動、特にリーダーとしての振る舞いに活かすべき心構えを考察してみたいと思います。
現代社会において、自動車運転は極めて日常的な行為です。 しかし、わずかな油断や判断の誤りが、重大な事故を招くことがあるのは周知の通りです。
実は、自動車運転と私たちの業務の進め方には、多くの共通点があ ると思います。特に組織のリーダーや管理職にとって、自動車運転を例にとることで、日々の意思決定や部下指導の在り方を客観的に見直すきっかけと思います。
1. 【前方不注意】── 全体最適を見失う視野の狭さ
事故原因で最も多いのが「前方不注意」、いわゆる脇見運転です。スマートフォンを操作していたり、ナビに気を取られたりすることで、今どこに向かっているのか、周囲の状況が

どうなっているのかを見失うのです。
これは、リーダーの日常業務にも通じます。たとえば、部下一人の意見や部署内の声に偏りすぎて、全社的な方向性や経営環境の変化を見逃すことがある。目の前の課題に囚われすぎると、「会社がどこへ向かっているのか」という全体像を見失いかねません。
→ リーダ ーの心構え:
部分最適ではなく、常に全体最適を意識し、「視野を前方・周囲・後方に広げる」こと。経営の目的地と現在地を意識し、視野狭窄に陥らないよう、自分自身を定期的に俯瞰する習慣を持つことが重要です。
2. 【スピード違反】── 成果ばかりを急ぎ、プロセスを軽視する危うさ
自動車の速度超過も、重大事故につながる原因の一つです。スピードを出しすぎると、ブ

レーキが間に合わず、判断の余地もなくなります。
会社においても、「早く成果を出せ」「とにかく数字を上げろ」と急ぐあまり、プロセスの正当性や法令順守、内部統制を軽視する傾向が出てしまうことがあります。短期的には成果が上がっても、長期的には組織の信頼を損なうことになりかねません。
→ リーダーの心構え:
成果のスピードを求める一方で、「適切なプロセスを踏んでいるか」を問い続けることが大切です。特に部下が無理をしていないか、過剰なプレッシャーをかけていないか、リーダー自身が冷静にアクセルとブレーキを使い分ける判断力が求められます。
3. 【車間距離の不足】── 人との距離感を誤るマネジメント
交通事故の一因に「車間距離の不足」があります。他車との距離が近すぎると、予期せぬ
動きに対応できず、追突してしまいます。

これは、部下や他部署との関係にも通じます。必要以上に干渉しすぎたり、逆に放置しすぎたりすると、信頼関係にヒビが入ります。適切な「距離感」や「タイミング」でのコミュニケーションが重要です。
→ リーダーの心構え:
メンバーに対して「信頼に基づく適切な距離」を保ち、必要な時には支え、不要な時には任せる。1on1や定期面談など、意図的な接点を通じて、相手の変化に早めに気づく姿勢が大切です。
4. 【整備不良】── チームや仕組みのメンテナンスを怠らない
整備不良──たとえばブレーキやライトの不具合は、自分では気づきにくいものの、事故の直接原因になります。
企業における「整備」とは、業務フロー、評価制度、人材育成体制などの“仕組み”です。

放置すると、内部で不満や摩耗が蓄積し、ある日突然、組織不全や離職の連鎖が起こり得ます。
→ リーダーの心構え:
日常的に「業務プロセスが機能しているか」「人の成長の機会が適切にあるか」を点検すること。目に見えにくい摩耗こそ、早期に気づいて手当てするリーダーの感性が問われます。
5. 【悪天候】── 変化に柔軟に対応する経営感覚
自動車運転では、雨・雪・霧などの悪天候によって、通常よりも慎重な判断が求められます。同様に、企業経営も、景気後退、法改正、感染症の流行など「外的変化」に晒される場

面が多々あります。
悪天候で事故を防ぐには、スピードを落とし、視界を確保し、危険予測を働かせる必要があります。企業においても、「今は無理に攻めるべき時か?」「まず守りを固めるべきか?」という判断が鍵になります。
→ リーダーの心構え:
変化に対して固執せず、柔軟に舵を切る姿勢。状況を見て“スピード”や“進路”を調整できる、柔らかい頭としなやかな心を持つことが不可欠です。
6. 【運転免許の更新】── 学び続ける姿勢が安全を守る
運転免許には定期的な更新があり、その際には講習も義務づけられています。これは、初

心を忘れず、最新の情報を身につけ、安全意識を高め続けるための制度です。
企業経営においても、幹部・リーダーは「自分はもう十分できている」と思った時点から、学びが止まり、感覚が鈍化します。
→ リーダーの心構え:
どんなに経験を積んでも、外部の刺激や自己研鑽を続けること。「学ぶリーダー」がいる組織ほど、変化への対応力と持続的成長力があります。
最後に──リーダーは「運転手」以上に「ナビゲーター」でもある
自動車の運転手は、ハンドルを握って目的地に向かいます。一方、会社のリーダーは、ただの運転手ではなく、地図を描く「ナビゲーター」でなければなりません。経営環境という複雑な道路を、どこに向かい、どのような道筋で進むのかを描く役割です。

「自分の運転が、チームの命を預かっている」という意識をもって、リーダーシップのハンドルをしっかりと握りしめていきましょう。
筆者 斎藤 好弘